その昔、チャールズ・ヘイワードとフレッド・フリスが参加してるからという理由で購入した
ハイナー・ゲッベルスの「Der Mann In Fehrstuhl/The Man In The Elevator」(ECM)。
錯乱状態の男の叫び声と怒号、緊迫感に拍車をかけるかのようなノイズの洪水。
そして、その向こう側から聴こえてくるヨレヨレの「ブラジルの水彩画」。
キューブリックの「時計じかけのオレンジ」さながらの屈折感とシュールさに
脳天がぐらついた経験をしました。
その音源で「ブラジルの水彩画」をうたっていたのが、まさにアート・リンゼイ。
NO NEW YORKでのDNA、ラウンジ・リザーズなどといたるところで
耳にすることが多かった名前でしたが、私が明確に彼を意識したのが
この「Der Mann ~」を聴い時だったのです。元々ブラジル出身なんですね。
(ちなみにアンビシャス・ラヴァーズは今だ未経験なんですよねーこれが)
そう、「屈折感」という言葉こそ、
まさにアート・リンゼイの音楽を表すにピタッとはまるのですが、
ブラジルが世界に誇るもう一人の屈折御大ヴィニシウス・カントゥアリアをはじめ、
ナナヴァス、坂本龍一、メルヴィン・ギブズ、ブライアン・イーノ、
はてはホメロ・ルバンボまでもが参加した96年作の「o corpo sutil」は
どうしようもない屈折感の中の一瞬の美しさをかき集めたかのような、
今でも聴くに堪えうる素晴らしい一枚。